「芽生」昭和十五年十二月一日発行、第十三巻第十二号(通巻百四十四号)

一人一句

   一茶の句帖より             東條耿一


   焚くほどは手で掻いてくる落葉かな

 この句でもほぼ窺い知れるやうに、一茶はかなり自我的な男である様に思ふ。彼は素直に自然に這入つて行けなつた。現実の圧迫に対して恒に反抗をした。時には激しい憤りすら覚えたに違いない。彼は単なる世俗の徘徊師ではなかった。現実への反発を挑む彼の寂寥は

  盥から盥の移るちんぷんかん

 と歌はせずにはおかなかつた。ちんぷんかんを装ほふ事は出来ても、これを行きぬく者は稀である。一茶の自我の強さは其処にある。障子の破れ穴から見る天の川に、新しい美を発見する、死の直前の一茶に、私は人間に徹した彼自身の寂寥の深さを思ふ。焚くほどは、手で掻いて来るところに、人間一茶の面目が髣髴としている。私の日頃愛吟する句の一つである。