「武蔵野短歌」第七巻十一号、昭和十五年十一月五日発行

 

    老父を憶ふ             東條耿一

    ─父胃癌を病みほとほとに死期近し

さかりすみてつかへし時よつひになし老父(おいちち)いまは死の床におはす 

三人の癩者の父と生れまして心むなしく病みたまひけむ

ふたたびは生れることなしうつし世につかへる時よつひにあらぬかも

    傷兵の友に寄せて

汰沽(タークー)のたたかひに右足を捧げきて癩とし生くと君思はざらむ

残りなく身はたたかひて傷つきつ癩とし生くか(おみ)ますらをや

聖戦(みいくさ)をたたかひ終へし臣君を癩院にして病友(うから)と呼ぶか