椰子の実
 

「眉毛もない 鼻もない

みれば見るほど

死んだお父さんそつくりよ・・・・」

 

こよひもまた寮をぬけ

ひとり赤松の幹に凭れて

あなたは抱き 泪を流し さうして

飽くことなく愛撫する 椰子の実を

 

おお椰子の実よ お前もまた

故郷を知らぬ子

少女の腕に軽くあれ

             (昭和十二年「山桜」三月号)



これは、「初春のへど」に入っている「散文詩 椰子の實(P39-40)を、詩の形にしたものであろう。
東條は、散文詩がいい、この省略された詩の形より、散文詩の方が圧倒的に印象が強いし、余韻があるように思う。
そちらを是非、比べてお読み下さい。
椰子の実が顔の崩れた癩者の頭に似ていること、それと、椰子の実には、
     名も知らぬ 遠き島より
     流れ寄る 椰子の実一つ

     故郷の岸を 離れて
     汝(なれ)はそも 波に幾月

     旧の木は 生いや茂れる
     枝はなお 影をやなせる

という童謡がある。望郷、これを下に敷いているのだ。父を恋うことと、望郷とが詠まれているのである。

     少女の腕に軽くあれ

ここで、詩を結ぶところが良いですね。せめて、少女の腕に軽くあってくれ、あまりに痛いげな少女なので・・



  
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