中井正夫の詩 
   春風によせて

輪郭のない乙女よ
せめてもの
わずらわしい日日のひと時を
貧しい心の僕は
アナタを恋人と呼び
アナタによりそい
昨日の白いぺエージに
のこり少ない
青春の譜を書こう


   検温

いつものごとく いつもの時間
美しい
白鳥の触覚が
私の手に
ふれるともなく
ふれる

僕とボク 生と死の
摩擦の
破調音が
一枚の紙に記される

僕の視線がソコに定着する
僕とボクの青い足跡の
なんとジグザクな事か
ああ
僕とボクが
笑って握手する
・・・・・日が待ち遠しい


中井正夫 (1925,8,25〜1992,3,18)
大阪府出身、1940.年5月2日、光明園(国立療養所邑久光明園、旧外島保養院)入所。

「春風によせて」は
「昨日の白いぺエージ」という、過去の中に生きる、その過去の青春は現実にいる乙女ではない、というところが悲しいですね。確かな恋もしないうちに発病し、療養所に入ったのでしょう。15歳で入園です。
それでも、「青春の譜を書こう」と、悲嘆に暮れない力強さがうつくしいと思いました。

「検温」は
看護婦による毎日の検温を詠ったものですね。
「白鳥の触覚」とは、すばらしい感性だと思います。白鳥は近くに寄ると生々しい、ある種のエロスがあります。
「生と死の 摩擦」ということからするとかなり具合が悪いのでしょう。
平熱に戻り、はやく元気になりたいと、こちらの詩も、前向きです。



              
      御神籤のツリー(鹿島神宮)



        
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