俳句 「風見治を詠む」

   風見さんにお目にかかったとき、「僕を詠んでみんね」と言われて、その気になりました。しかし、人を詠むというのは難しい。      

 

風見氏の「鼻の周辺」たんぽぽ咲く

 

花時に逝く母の手紙が押入れに

 

蓮池に母のひらがな引つかかり

 

おびただし鬼面を描いて桜時

 

女を描く横顔花梨(かりん)(しゅ)の薫り

 

(さら)な画布に塗り止まず若葉の憂し


フォト・HANA

潮騒や「Tシャツの女」みどり髪

 

ふるさとの今昔に横たう天の川

 

「風」が(はた)糸切つてゆけ影法師

 

(はた)上げの昏れの鬨声少年のもの

 

ふるさとのただに酸っぱいワイン買い

 

萎縮した手のひらに爪さくら飯

 

焼酎を両手に拝し春の蝿

 

小面や我を去りたる女おりぬ

 

「叫び」たり小面に鶯止まず

 

(ムンクの「叫び」)

 

物置きに焼酎の箱箱鳥雲に

 

恋猫やぶら下がり器は首吊り用です

 

仁王のしがみにんげんやはり面白い

 

蔦草や遠泳するよう仁王の頭

 

仁王散逸にんげんの愚かさよ

 

瞳の失せし仁王石像(におうぞう)若草匂う

 

滴りの大隅半島(おおすみ)憑かれさ迷うよ

 

囀りに応えるように仁王の拳

 

納骨堂すうと犬現れみどり雨

 

野良犬の道を塞ぎぬ春あけぼの

 

八重岳と霧島間に降る桜蘂

 

(八重岳棟が風見さん、霧島棟が島比呂志さん)

 

風光り(なた)のようなり黒薩摩

 

黒物に地虫の唄を聞く掌かな

 

地虫鳴く朝鮮陶工の朴訥さ

 

黒物惚れぬかん苗代川炎えている

 

朝鮮墓古る春陰の丘陵かな

 

古陶を撫ぶいのちなり「不毛台地」

 

陽炎や壺ふくよかな窪みもち

 

焼き物にのる春塵のとおきこゑ

 

古陶器の鈍きかがやき卯浪かな

 

パチンコ好きや亡父(ちち)は忘れてコガネムシ

 

木になって没原稿を焚いており

 

冬の半島さびしくなんかアロエ汁

 

今年またわれの原爆トコロテン

 

生く我に掌を合わす人芹の花

 

にんげんのあとかた無くて鳥雲に

 

自著置いて花咲爺さん「二人展」

 

梅散るに母の箴言ひつそりと

 

俑も木馬もひとつ視野なり風のゴンドラ

 

若き日は巡礼の如カミュ、カフカへ

 

サングラスの下しんかんとして目赤い

 

痩身がまた二キロ痩せ薔薇植える

  

筆からペンへ指を慣らす卯の花腐し

 

うつ伏せて書くことも雨の芍薬

 
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三度なるチャイムの空に燕尖く

 

ははの死に「来い」とは言わず忍冬

 

銀製の太い万年筆走り梅雨

 

大隅半島(おおすみ)の仁王にかぶさる植田かな

 

麦秋や飲めど酔われん「らい」の最期

 

友が遺言えごの花地に零る

 

どこを切っても赤いトマトめ阿呆な奴

 

土佐男管に繋がるや柿若葉

 

手毬花いつもくるりと別れたり

 

時鳥芥川賞作家の古賀状

 

葉隠れに毛虫すいとのる自転車

 

らいを生く我に文学朴の花

 

凌霄花犬猫多い夫婦棟

 

痩身の露わ擦りて衣更

 

重篤の見舞い日課に夏立ちぬ

 

実習生のやつて来し夏野かな

 

六月のフォークを持って外出なり

 

病葉を本の栞に酒甘し

 

点滴の落ちる漢に青鷺立つ

 

看取りとは途方も無き十薬を引く

 

同病の妹抱く人形茄子の花

 

不知火や父の影より抜けられぬ

 
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恋人との家が残りて老鶯しきり

 

寝転んで起きてひとりの薄暑かな

 

振り返ると水盤の中の「二人展」

 

油虫片付けられて足残り

 

銭葵酒とパチンコに棄てきしもの

 

昼顔や熱のからだの浮きあがる

 

独りもんの煎餅布団てんとう虫

 

一枚の夏座布団の上の首座

 

恋人の遠聞ありて青田の夜

 

園内放送長閑なり蟻の列

 

来訪は女がうれし青嵐

 

マイクまで女の腕の釣鐘草

 

ボランティアが連れ来し子供蛍袋

 

社会復帰には年食い過ぎた酢漿草

 

酒飲んでぶるぶる飛んだ黄金虫

 

入梅や書棚の壁の古原稿

 

校正の区切り区切りに団扇の風

 

禿頭にのる夏帽子テーマパーク

 

能面画幾多は我の遠泳なり

 

アマリリスここにいたんか黄昏時

 

キャベツ剥ぐよう妹が穿(うが)つかな

 

社会への箱眼鏡だった愛の家

 

本名を括弧に入れて月見草

 

墓なきがらいの人並み花ききょう

 

川床や時間に退けし訪問者

 

一輪の晩夏のバラと焼酎と

 

能面を付けて入りたり芙蓉の蔭

 

鴫の田やいつでも恋う海見える街

 

眼疾のひっそりしたる白式部












桜島 03.11.08
最後までお読み頂きありがとうございました。







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