村井秋の俳句

2008.3月

水草生う偶に髭剃り夫出でし

友だち以上一直線のつばめかな

山桜山低ければ煙りおり



2008.2月

水仙のそばで手紙の焼かれおり

お清めに舌鼓せり冬桜

わたくしのウィークポイント西行忌くる



2008.1月

白湯沸いて楽屋裏めく大晦日

母へ汲む水の地球の若水を

介護用おむつかさばり日脚伸ぶ



2007.12月

魚形水雷熱燗というやつ

爪のびる不思議は知らず柊の花

冬椿母の抽斗彩静か



2007.11月

秒針にのる不安かな星月夜

靴音の芯がらんどう十三夜

試着する鏡の前の冷ややかさ



2007.10月

秋薊小さな星に生きてきし

糸瓜について四字熟語はないか

秋晴やつよくあなたのツボを圧す



2007.8月

深海からやってきた目ん玉梅雨の猫

こっそりと嘘あり海月無数浮く

乱読の本散らばって夕立来



2007.7月

夜風入れ絵本のなかの夏野かな

日傘から出でたる影と歩みおり

苔濁る甕に金魚の緋色浮き



2007.6月

紫陽花や溢るものだし洩るるもの

更衣ときどき水を意識して

センセイへ夜濯ぎするよう手紙書き



2007.5月

母の牡丹遺影はどこか寂しげに

新じゃがの煮えたか串を刺す奴隷

吹かるるは池の柳のよろこびに



2007.4月

立雛小声がいっぱい集まりく

二人だけの秘密の本です雲雀の巣

囀りや一心写経の鎖めく



2007.2月

三寒四温雑音を拾います

いつまでも生きて喋って蜆汁

寒月やからだほうぼうつぼありぬ



2006.11月

糸付いた十一月の上着かな

小春日の病室に鳴る咽喉の笛

百一分の黙祷だろう白山茶花



2006.8月

病室の人汗かかず蛍光灯

掌のなかの水母漂う母の息

綿菓子の棒に飛びつく百日紅



2006.7月

半夏生母の眠りの原野めく

夫の留守目高のごとき軽さかな

打水の百円ワゴン古本屋



2006.6月

一村のほほえみ返す植田かな

新玉葱のうす皮剥いて人忘れ

完熟のトマトそうとうがまんしてる



2006.5月

還暦の遇ってみたい人花水木

声出せぬ母蛤の刻のうち

チューリップを線描してる母の笑顔



2006.4月

愛車に乗って水菜のようにひとりかな

耳に胼胝おやじのペースだ猫柳

春疾風カバーの黒い広辞苑



2006.2月

猫柳ゆっくり話す人集合

亡き母から返信が来て梅一輪

春の雪あとかたもなく黒ふっくら



2006.1月号

作務僧の山水に溶け十一月

口げんか果てなき果ての湯冷めかな

立冬や歌を忘れて竹林へ



2005.12月号

揚羽蝶地面に伏して非戦の夢

秋燕や思考の底の電子音

三伏や万象じわり黄に染まり



2005.10月号

痛む日はそっと遠くに卯の花咲く

笑みをたたえてアナーキーな山椒魚

病み暮れし女医のおもかげ蛍袋



2005.8,9月合併号

うぐいすやすべる秒針臑の疵

八重桜まりもがこくり眠りたり

つばくろや北鎌倉を一列に



2005.7月号

返信の茎立つように無地便箋

廃屋は大地に生えて花大根

桜海老ひとにぎりという淡い呼吸



2005.6月号

早春の廊下精霊とすれ違う

思い出して泣いているかも春の雪

ふっくらと親書したため梅の天



2005.5月号

うち捨てて白の世界へ初旅に

母の肖像しづかにかたし寒の入り

七草粥熊野古道の足音す



2005.4月号

かくれんぼ鬼の消えたる十二月

枯木立に入りぬ和室の掛け時計

無口でも分かりやすい人山眠る



2005.2、3月号

ふかふかと声の大きめ秋暑し

長瀞の分母のように冬の鳥

半紙を手で母が平して時雨けり



2005.1月号

かなかなが夫を呼んでくる夕べ

川のよう二人と三人秋茜

あげはちょうここにいるってふしぎです



2004、12月号

「汚い」って零れしシュガー晩夏かな

草稿を塩漬けにして花氷

考えるヒントが欲しい糸瓜棚



200411月号

置き去りにされたるこころ山椒魚

文字摺草や朝の視線のくすぐったい

老人は遊び學である大文字草

 

2004.10月号

わたくしはいいえわたくし蛍袋

河骨や二階の人へ往復す

山蟹の知ったか振りに窪に入る

 

2004.89月号

地面ふわっくしゃみのように竹の子

粽食みクスクス戦ぐ日本人

たんぽぽの絮日輪の飛沫飛ぶ

 

2004.7月号

出会いからやつとここまで白躑躅

停止線さつとアジアの天然水

とうがらし好きそうな人煙りをり

 

2004.6

助手席の別れの曲の日向ぼこ

完走の夫囀りのゆりかごに

ヒヤシンスのピンクと白予感は赤

 

2004.5月号

雑炊をすするときマングローブの森

行く年を反面教師の人とゐる

一本の水仙新しく生きる

 

2004.4月号

カラカラカラ空を襤褸の井月がゆく

白黒の証明写真冬椿

ケイタイの毀れやすけり水仙花

 

2004.23月号

菊の香やばたり途絶えし人の影

ひまわりの凄まじい枯れ犀とゆく

はめ殺し厨小窓に月細し

 

2004.1月号

眼疾のこっそりしたる白式部

不知火や父の影より抜けられぬ

鴫の田やいつでも恋う海見える街

 

2003.12

一輪の晩夏のバラと焼酎と

川床やさささと退けし訪問者

墓なきがらいの人並み花ききょう

 

2003.11月号

韮の花書き(おお)せて後嘘っぽい

病葉を本の栞に酒うまし

止めなさいキャベツをぼそっと妹が剥ぐ

 

2003.10月号

うつ伏せて書くことも雨の芍薬

油虫片付けられて足残り

マイクまで女の腕の釣鐘草

 

2003.8,9月号

風見氏の「鼻の周辺」たんぽぽ咲く

納骨堂すうと犬現れみどり雨

焼酎を両手に拝し春の蝿

 

2003.7月号 

清明や人にかぶれて忙しき

文通の便箋選び揚げ雲雀

萎縮した手のひらに爪さくら貝

 

2003.6月号

夕映えの水仙ほんのり発熱す

切り抜きで膨れしノート麦萌える

如月や笑窪のように広場の子

 

2003.5月号 

ぼうたんのやうぱつと散る初雀

からだおちこちひそひそ祝箸

元旦のスーパー営業ステンレススプーン

 

2003.4

暮れた空に付箋のやうな冬の月

黄落の日本大通りモダニズム

捨てるように潜り込みゆく蒲団かな

 

2003.23月号

御手前の炭火しづもる冬の鳥

井月や稲妻のように散らばる碑

サンルームのウエイトトレーニング冬紅葉

 

2003.1月号

秋の風秒針のよう消音時計の

稲刈の田やブラジャーに乳おさむ

児のキスのやう正面の萩の花









お読み頂きありがとうございました。



「海程」誌掲載句

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